★笑える悲劇★

少し音楽に詳しい人だったら、きっと笑えます。
当事者にとっては悲劇でも・・・・・(笑)

絶対音感● ランダムに提示された音の名前、つまり音名が言える能力。あるいは音名を提示された時にその高さで正確に唄える、楽器を奏でることが出来る能力
絶対音感を持ってる人が、たとえば、楽譜を見ながらピアノを弾いている時に、

「一音下げてくれる?」

と突然誰かにいわれた場合、彼らの多くは一瞬にして全身が凍りついてしまうという。移調による混乱と呼ばれるものである。

声楽家のフィッシャー・ディースカウや、チェリストのパブロ・カザルスのピアノ伴奏者であったジェラルト・ムーアは、その瞬間の体験を自伝
「お耳ざわりですか-----ある伴奏者の回想」に記している。
若い頃、私には<絶対音感>というものが身についていた。

これは移調しなくてはならない際に、私にとっては有利というよりむしろ障害となった。

目ではハ長調で印刷されている楽譜を見ながら指では変ロ長調を弾いてると、目と頭がこんがらがって来る。そして指がなかば無意識のうちに、頭の中の耳で聴くことのできる音-----つまり、印刷されてある音-------へと、さまよい戻っているのに気が付く。

私の絶対音感が最も能力を発揮していた頃、私としばしば一緒に仕事をしていた声楽家から、

ある曲を変イ長調から変ト長調に低く移調して欲しいと頼まれた。

変イ長調で歌うと、曲の終わりは最高音の変イ音を出さなくてはならなかった。それで彼はたじろいだのである。

私は演奏会の前に数時間練習して、この移調を引き受けた。曲の中ほどの数十小節の区間を除くと、そんなに困難な移調ではなかった

-----しかし、その区間は、厄介な臨時記号がうじゃうじゃうごめく、まったく驚異的な転調の場所であった。

本番で私は、心に秘めた自信をもってこの移調曲を弾き始めた。けれども動きの速い、ダブルシャープやダブルフラットのついている暗い森へ近づいた時、私はあがってしまった-----実際、私は道に迷ったのである。

私は深い薮の中を斧で叩きながらがむしゃらに突き進んだ。薮が切り払われた開拓地にやっとのことで現われ出た時、私はギョッとして飛び上がりそうになった。

ああ何ということだろう。

私は原調より低くではなく、高く移調して弾いていたのである。

これは私の同僚を危うく殺すところであった。

何故ならば、彼はそのとき期待していた変ト音の代わりに、三度も高い変ロ音を歌わなくてはならなくなったからである。

私は、そのときの彼の飛び出した目、はれあがった首筋、そして水から飛び出る魚のように、彼の声域を越える音へと飛びついた瞬間のものすごい声を思い出すと、何とも言えない不快な罪深い気持ちが未だにじわじわとしのび寄ってくるのを感じる。

そして、これが美しい友情の終わりとなってしまったのであった


今では、電子ピアノで「一音下げてくれる?」と言われたら、スイッチ・ポン!で、まるでカラオケのキーを下げるように移調できます。
まったく便利な世の中になったものです。
でも、絶対音感を持ってる人にとっては、このような便利な機能も、たんに”気味悪い”ものでしかないのかもしれませんね。
[注・=コメント]